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   こちらはテニスの王子様・手塚国光 青学部長のお誕生日をお祝いする、期間限定お祭りサイトです
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こうの(よぎてん)様



小学3年の時の誕生日、台風の影響で大雨、強い風だった。
クラスメイトを呼んでのささやかなパーティーも中止。
少々がっかりしていた午後、一人の友人が訪ねてきた。雨合羽を着て、濡れないようプレゼントを抱えて。
彼が帰る頃には雨は止んでいた。
母は彼にたくさんの手土産を持たせた。
その後彼は転校してしまったが、
今日、台風が去ったあとの夕暮れ空を見て、思い出した。



      
 
  
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藤野ラーク様

      
 
  
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遠州屋小吉

      
 
  
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秋津

 連休の始まりは、朝から気持ちのいい秋晴れだった。
 その日、少年は祖父に連れられて、初めて隣市にある総合公園へ出かけた。
 体育館で行われる、柔道の大会を見物するためだ。大会の審判長を務める祖父の話によると、関東圏で一、二の、大きな大会だという。
「今日は子どもの部はないがの」
と、案内板で体育館の場所を確認した祖父は、傍らの小さな頭を見下ろした。少年が祖父を振り仰ぐ。形のいい鼻梁に華奢なフレームの眼鏡をかけている。目元の涼しげな、利発そうな男の子である。
「東のトップクラスの連中が集まる大会じゃから見ごたえがあるぞ」
 そう言って、歩き出す。祖父は普段より多弁だった。背広にループタイを締めた祖父は、足取りも矍鑠(かくしゃく)と、体育館の正面玄関を避けて、ぐるりと回って裏手へ向かう。
関係者しか立ち入れない通用口の前には、男性が二人、人待ち顔に立っていた。
「あ、手塚先生!」
 年かさの方が声を上げ、軽く頭を下げた。隣の若い男もやや硬い表情で同じように一礼する。二人とも中背ながら、筋肉の詰まった、いい体格をしていた。
「おお、神宮寺君か。しばらくじゃな」
「先生もご健勝のようでなによりです。今日はよろしくお願いします」
「うむ」
 神宮寺はふと、傍らへ視線を移した。
「こちらは……お孫さんですか?」
 手塚国一(くにかず)は重々しく応えた。
「孫の国光じゃ」
 少年は、きちんと挨拶をした。
「こんにちは」
「はい、こんにちは」
 と、神宮寺は愛想よく応えた。学校の先生みたいだ、と国光は思った。隣のクラスの担任が、ちょうどこんな感じだ。
 神宮寺は扉を開けると、身体をずらせて二人を中へ促した。警備員の横を通る時、国光が顔を向けると、彼は軽く笑顔を返した。国光がペコリと頭を下げる。相手の笑顔は深くなった。
「先生、試合のタイムスケジュールですが、二、三変更した点がございますので、先にご確認していただけますか?」
 神宮寺はせかせかと二人を先導しながら、国一へ伺いを立てる。
「ふむ?」
 ゆったりと廊下の真ん中を歩きながら、国一は孫の方を振り返った。
「国光、わしはこれから打ち合わせをせにゃならんから、お前、先に観覧席へいっとくか?」
「はい」
 と、先日、七つになったばかりの孫は素直に肯(うなず)いた。だが祖父はそう言ったものの、気遣わしげに白い眉を寄せた。すると、神宮寺が口を挟んだ。
「でしたら先生、お孫さんは聖川に席まで送らせましょう」
「おお。そうしてくれるか?」
 振り返った国一に、青年は神妙に、「はい」と答えた。顔が緊張で強張っている。
「関係者席は審判席のすぐ後ろですから」
 と神宮寺が続ける。国一は重く頷き返した。目が届くところに孫がいれば安心である。
「ではな国光」
と、祖父は孫へ言い聞かせた。
「この聖川クンに観覧席まで連れて行ってもらえ。それでな、昼休憩になったらわしと昼飯を食うからな。――わかったか?」
「はい」
 審判員控え室、と張り紙が張られた部屋の前で、国光は祖父と別れた。そのまま聖川に連れられて会場へ向かう。
「君も柔道を習っているのか?」
 しばらく二人は無言で歩いていたが、聖川がぽつぽつと口を開いた。国光が「習ってない」と答えると、彼は意外そうに国光の顔を見直した。
 あの手塚先生のお孫さんだというから、てっきり習っているものとばかり思っていたのだが――
「柔道は嫌いか?」
 国光は、小首をかしげてから、答えた。
「まだ、よくわかりません」
「そうか……」
「あなたもしあいに出るのですか?」
 国光が訊ねると、聖川は、太い首を横に振った。
「今日は裏方さ。肩を痛めちまってるんでね」
 試合開始前の会場は、独特のざわめきに包まれていた。聖川に案内され、正面エリアの関係者席のひとつにちょこんと腰掛けると、彼は眼下のフロアに並べられたパイプイスの列を指で指した。
「試合中は、手塚先生はあそこに居られるから」
 用があるときはスタッフに訊けばいい、と言い残して、彼は自分の受け持ちへ戻っていった。
 ひとりになった国光は、もの珍しそうに周囲を見回した。小学校の体育館よりだいぶ広い。観覧席のあちこちには選手の名を書いた応援の垂れ幕がさがっていて、雰囲気を盛り上げていた。家族連れや大人の姿に混じって、胴着を着た子どもたちもいる。道場の応援だろうか。
 そうこうしていると、大会委員会から試合開始三十分前のアナウンスがはじまった。おとなしく聞いていた国光だったが、はっと母親の言いつけを思い出した。
「――先に行っておくのよ?」
国光はシートから立つと、首からIDカードを下げた大人を探した。聖川に、スタッフの目印だと、さっき教えてもらったのだ。
ちょうど老夫婦を先導してきた女性スタッフを見つけたので尋ねると、
「ああトイレなら…………」
 と、指で指差しながら、彼女は丁寧に教えてくれた。
 言われたとおり、右と左に折れてトイレを探す。ところが探すうち、国光は正面玄関から外へ出てしまった。
「…………?」
 あれ? と思って見回すと、向こうの街灯のところに案内があった。駆け寄って見上げると、矢印の形に交差したプレートのなかに、トイレのマークもある。
 五分も歩いただろうか。いつの間にか国光は、遊歩道に迷い込んでいた。探していると、遊歩道から少し引っ込んだところにコンクリートの壁が見えた。――あった。
 トイレを出て、ぬれたハンカチを半ズボンのポケットにしまうと、国光は来た道をとって返した。さあ、体育館へ戻ろう。
 まだ午前中という時間のせいか、遊歩道に人気はまったくなかった。きれいに整備された庭園の中を国光はどんどん歩いていく。からりとした陽射しが木漏れ日を作って、気持ちがいい。
 ところが行けども行けども、体育館がまったく現れない。
「…………?」
 国光は立ち止まった。後ろを振り返り、周りを見回す。ずっと、来た道を引き返しているものだとばかり思っていたのだが、
「…………」
 改めて見直すと、周囲の景色も見覚えがあるようなないような、どうにもわからなくなってきた。
 国光はにわかに途方にくれた。行くも戻るも出来なくなって、きょろきょろと首を巡らせる。と、
「?」
花の植え込みの向こう、芝生の中に誰かいる。男の子だ。
あんなところでひとりで何をしているんだろう、と思っていると、ふと、その子と目が合った。
 途端だった。
「う、わーん!!」
 くしゃりと顔を歪めたかと思うと、男の子はいきなり泣き出した。国光はびっくりした。びっくりしたが、とにかく駆け寄ると、そっと彼の顔を覗き込んだ。
「どこかいたい?」
 男の子は国光の声が聞こえていないのか、両手で目をこすりながらわんわん声を上げる。
 自分より小さいから、多分年下だ。むき出しの膝小僧に絆創膏を貼っている。
 泣きじゃくる男の子の様子を眼鏡越しに眺めていた国光は、なんとなく、わかった。
 …………多分、彼も、迷子だ。
 どうしよう? 
 そのとき、彼の髪先を、すい、と何かが掠めた。
「?」
 国光は反射的に目で追った。――あ、トンボ。
 目を凝らすと、あちらこちらにトンボがたくさん飛んでいた。きら、と薄羽が陽射しを弾いて光る。
 国光は、トンボに誘われるように、この指とまれ、と左の人差し指を立てた。じっと見ていると、トンボは近づいてきそうで、すい、と離れていく。今にも止まりそうで、止まらない。
 いつの間にか、男の子も泣き止んでいた。不思議そうに、国光の指先を眺める。
「あのね――」
 と、焦(じ)れた男の子が話しかけた。すると国光は、急いで自分の唇に人差し指を立てた。
「……しぃ」
男の子は慌てて両手を重ねると、口を塞いだ。と、国光の指先に、ふっとトンボが止まった。
「…………」
 二人が息を殺して見詰める先で、トンボは薄羽を伏せてじっと動かない。男の子はそぅっと手を伸ばした。――が、
「あ」
 トンボは、すい、といってしまった。国光が、指を動かしたのだ。
「どうして逃がすの?」
 不満そうに男の子が尋ねる。国光は答えた。
「……トンボは、飛んでいるからトンボなんだ」
「ふうん?」
 わかんない、という表情(かお)で男の子は首をかしげた。国光はもう一度チャレンジする。すると男の子もマネをして、指を立てた。
 二人は迷子であることもすっかり忘れて、並んで、トンボを目で追いかけた。
 と、
「…………祐太?」
 二人は振り返った。遊歩道から二人のほうをうかがっていたその少女は、男の子を認めると、ぱっと顔を輝かせた。
「祐太!」
「由美ねぇちゃん!」
 男の子は弾かれたように駆け出すと、姉の身体へ飛びついた。彼女は弟を受け止めると、見下ろして叱った。
「もうアンタは! 私が出てくるまでトイレの前でじっとしてなさいって言ったでしょ!」
 祐太は姉のジーンズの脚にじゃれ付いて、えへへと笑っている。さっきまで泣いていたことも忘れてしまったようだ。
「さあテニスコートへ戻るわよ。周助の決勝戦が始まっちゃうわ」
「兄ちゃん、ゆーしょー?」
 顔を上げて祐太が訊く。
「まだよ。あとひとつ勝てば、優勝」
「ゆーしょー!」
 祐太が繰り返す。だが姉のほうは、栗色の髪を手で軽くうしろへ流すと、半信半疑の表情(かお)で言った。
「でも決勝の相手はテニス歴四年の小五だって言うし、今度ばっかりはいくら周助でもムリかもね」
 とはいうものの、春に小学校に上がると同時にテニスを始めたばかりの彼女の弟は、準決勝で小三の女の子を相手に、ストレートで破ったのだが。
「兄ちゃんは強いもん」
 姉を見上げて祐太が口を尖らせる。由美ねぇちゃんは微笑(わら)った。それから、国光のほうへ顔を向けると、
「えーっと君は? お父さんお母さんはどうしたのかな」
 屈みながら、優しく尋ねた。
「え、っと」
 国光は、口ごもった。
「あのねあのね、トンボがね――」
 と、祐太がお構いなしに話しかけるのを、
「あーはいはい、ちょっとこっちのお兄ちゃんと話すから祐太は黙っててね」
 適当に弟をいなして、彼女は国光を上から下まで一瞥した。
「もしかして、君も迷子になっちゃったかな?」
 見た感じ、周助と同じくらいだろうか。だが母親似の、ふわふわした甘い外見の弟と違って、彼は目鼻立ちの涼しげな、きれいな顔立ちをしていた。
「あの、たいいくかんはどっちですか?」
「体育館?」
 聞き返す彼女に、国光は肯(うなず)いた。
「体育館なら、あっちだけど――」
 言いさして、振り返る。だがここからだと、口で道順を説明するには少し距離がある。
 彼女は、国光の顔を見下ろした。
「――いいわ。一緒に行ってあげる」
 そう言うと、にっこりした。
「こっちよ」
 弟の手をしっかり握って、歩き出す。国光はぽかんと佇んでいたが、彼女が振り返って自分を手招いているのを見て、あわてて駆け寄った。
 この髪の長いお姉さんが、体育館まで連れて行ってくれるらしい。
「――体育館で試合か何かあるの?」
 三人は並んで、歩き始めた。
「じゅうどうの大会です」
「へえ、柔道か。家族の人かお友達の応援にきたの?」
「ちがいます。おうえんじゃなくて、祖父がしんぱん長で…………」
 国光の頬を掠めるように、トンボが、飛んでいく――
 午後の練習メニューを各学校の部長と顧問たちと打ち合わせて、手塚はテニスコートを出た。青学のメンバーたちは、もう先に弁当を食べているだろう。
と、向こうの藤棚の下に、不二がいた。
「…………?」
 視線に気付いたのか、彼は肩越しに手塚を認めると、ちょいちょいと内緒話でもするように小さく手招きした。
 その不二のそばに、もうひとり、こちらに背中を向けて立っているのがいる。
 黄色と緑のコントラストが鮮やかなジャージは、四天宝寺中の……、
「財前?」
 すると、不二は、自分の唇に人差し指を押し当てた。
「?」
 いぶかしむ手塚に、
「…………ほら」
 と、口の中で言って、彼はそっと財前の指先を指差す。
 トンボだった。静かに羽を伏せて止まっている。
 手塚がトンボと不二の顔を見比べると、くすり、と彼は微笑(わら)った。
「何トンボかな……? 手塚分かる?」
「いや……」
 灰色味を帯びた青い胴と薄羽のコントラストがきれいなトンボだ。すると財前が、幾分声をひそめつつ答えた。
「シオカラトンボとちゃいますか。この地味なフォルムは」
「ふうん……?」
 覗き込む不二に釣られて、手塚もトンボを見つめた。なるほど、シオカラという名前は、このトンボに似合ってる気がする。
「……トンボって、秋津(あきつ)とも言うんですわ」
 ぽつんと、財前が続けた。抑揚の乏しい、冷めた口調なのは相変わらずだ。
「へえ、そうなんだ」
 不二はトンボから目を離すと、少し意外そうに財前のほうを見遣った。考えてみれば、財前とは今日のような合同練習のときに顔を合わす程度で、特にどうと云う印象もなかった。まさか昆虫に詳しいとは……。まったく、人って、話してみないと分からないものである。
 それにしても、このトンボは、さっきから微動だにしない。
「ねえ、顔の前で指をぐるぐる回したら、このシオカラトンボ、どうなるかな?」
「?」
 手塚は不二を見返した。目顔で問う彼の眼前で、不二は人差し指をグルグルと、円を描いて見せた。
「こうやると、すぐに眼を回しそうじゃない?」
 悪戯っぽく微笑(わら)う。
「催眠術みたいにか?」
 手塚は不審げだ。昆虫のトンボにそんなモノが効くのか、と真面目に思案しているように見える。
「意外に引っかかるかも」
「あのー、話盛り上がってるとこ悪いですけど」
 と、抑揚乏しく、財前が口を挟んだ。
「トンボ、飛んでいきましたわ」
「え?」
 見ると、トンボの姿はなく、財前はひらひらと、大儀そうに手を振っている。
「なんだ。逃がしちゃったか」
「いい加減、指も疲れましたわ」
 そういうと、彼は指を組んで、ぐん、とひとつ伸びをする。
「ああ、ほら、あそこに――」
不二の視線を追いかけて、手塚は、肩越しに秋空を振り仰いだ。
 
――からりと高い空に、トンボは飛んでいった。
              (終)



コチラのお話を元にした 本日の一言は⇒コチラ

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緋良様

     
 
  
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